アトピー性皮膚炎の治療の話を続けます。
近年、アレルギー性疾患、中でも特にアトピー性皮膚炎の患者数の増加と、個々の患者の症状・所見が悪化の傾向にある様に感じます。何故でしょうか?
学会では、その理由として、消化管の寄生虫疾患の減少による免疫環境の変化や環境ホルモン、大気汚染などの影響が取りざたされています。
もちろん、これらの影響もあるとは思いますが、最も大きな原因は食生活の変化、特に脂質のバランスの変化であると私は考えています。
詳しくは、私の脂質関連のコラムを参照していただきたいのですが、近年、脂質の絶対的な摂取量が増加し、さらにオメガ6系の脂質の割合が増加しています。それに伴って、アレルギー性疾患、特にアトピー性皮膚炎が増悪傾向になっています。
オメガ6系の脂質は、肉類やオリーブオイルなどに多く含まれます。オメガ6系の脂質は、免疫力を強化するという効果を発揮するため、身体に非常に有用とされていますが、その反面、免疫系の賦活の負の側面であるアレルギー反応の悪化にも関与します。
オメガ6系の免疫を賦活しすぎる効果を良い意味で抑制し、バランスをとっているのが、魚などの海鮮系や荏胡麻、アマニなどの植物に含まれる油であるオメガ3系の脂質です。
現代の日本人は、主食が魚中心から肉中心へと変化しつつあり、また、植物由来の脂質もオリーブ油などオメガ6系の物が中心となっています。また、コンビニやデパ地下の総菜や冷凍食品、パンなどの出来合いの物=中食にも、ファーストフードや居酒屋、レストランでの外食のメニューにも、オメガ6系の脂質が多く含まれています。
そのため、オメガ3とオメガ6の摂取割合の指標であるEPA/AA比を見ると、ここ30年ほどで大きく低下しています。
この脂質環境の変化が、アレルギー反応の悪化に伴うアトピー性皮膚炎の直接的な悪化を招き、さらにはアトピー以外の人にとっても、かつて基本的な肌の美しさで定評があった日本人の肌質を悪化させている感があります。
アトピー性皮膚炎の症状、所見の改善には、食生活を魚中心のものに変えていくことが重要です。しかし、現代の我々にとっては、肉や卵を月に1-2回しか食べなかった時代の食生活に戻す事は最早現実的ではありません。ある程度の肉の摂取はやむを得ない部分があると考える必要があります。
そこで、食生活の改善に加えて、オメガ3系の脂質を医薬品の形で接種する事をお勧めします。
エパデールやソルミランという商品名のEPA製剤があります。これを摂取する事が、アレルギー反応、特にアトピー性皮膚炎の改善に大きく寄与します。
このEPA製剤は、血液検査でコレステロール(TC)や中性脂肪(TG)が高いなど脂質異常症がある人には、保険適応での投与が認められている医薬品です。EPA製剤は、OTC製剤として、薬局でも取り扱いがありますので、自費で飲む事も可能です。
その他、EPAに加えてDHAを含有する医薬品として、ロトリガという製剤もあり、上記EPA製剤と同様の効果が期待できます。
気になる方は、一度医療機関に相談されると良いでしょう。

また、アトピー性皮膚炎については、皮膚の洗いすぎにも要注意です。
かつてのイギリス女王エリザベス一世は、潔癖症の疑いがかけられていました。生涯独身を貫いたという点もその疑いの根拠なのですが、他にも風呂の入りすぎも潔癖症疑惑を強めたとの事です。女王の入浴回数、月に2-3回(!)。当時の常識的な入浴回数は月1回程度であるとの事。昔のイングランドでは、入浴はこの程度だったようです。現代の我々からは、想像が出来ない少なさですね。
また、昭和30-40年代の我が国の入浴回数は週3回程度。まだまだ、毎日入浴するのは例外的でした。
しかし現代は、毎日入浴するのが当たり前。特に若い人は、一日一回は当然として、状況によって朝と夕の二回入浴する場合もあるのではないでしょうか?
また、入浴の際に、昔は石鹸で身体の汚れを落としたものでしたが、昨今はボディソープが一般的です。このボディソープ、みるみる汚れを落とす便利なものですが、その反面、綺麗にしすぎるという欠点も持っています。汚れと一緒に皮脂も落としてしまうのです。というか、落としすぎてしまうといった方が適切でしょうか?
皮質の落としすぎは皮膚の防御機構を低下させます。また、ナイロンタオルなどで皮膚をこする事によって、表皮が傷つきます。そこに化学合成されたボディソープが触れる事は、皮膚にとって大きな負担となります。
アトピー性皮膚炎の人は、汗を流すための入浴は頻回に行って欲しいのですが、身体を洗う際には、自然素材の手ぬぐいや柔らかいタオルを使い、可能ならば自然素材の石鹸で優しく洗うのが良いでしょう。

アトピー性皮膚炎は、この様に食生活や日常の細かな工夫の積み重ねが、大きな違いを呼びます。気づいたこと、出来る事から始めていきましょう。
次回、アトピーと漢方の意義についても簡単にお話していきたいと思います。

 

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